うつ病について
うつになる流れ
うつが現れる流れは、家庭にある電気のブレーカーの作用に似ています。つまりある一定までしか電気が流れないようにしているのにもかかわらず、ある時思わず過剰に電気を使いすぎてしまうと、そのまま流していて不具合が起きないように前もって作動するというのがブレーカーです。うつも似た流れです。すなわちブレーカーはこころの警報サインとして働いています。無理して詰め込むとこれ以上負担をかけないようにこころが反応しています。よって、うつはこころにおける大切なストッパーとして見逃すことのできない症状といえるでしょう。
「うつ」の見つめかた
先に、「うつは、氷山の現れ方のようなものである」とも述べました(参照「ご挨拶ページ」)。それゆえ、うつは目先の症状つまり海上に出てきた氷山の部分を削るだけでは、十分ではありません。氷山の表に現れない部分、つまりこれまで積み重ねられてきた辛さや苦しみ、あるいは釈然としないまま耐えてきたことや頑張ってきたことを同時に見つめていくことが大切です。そこには氷山をとりまく環境、つまりご本人の暮らしやその周りの環境が含まれます。
このように、うつは症状にのみ目を向けて懸命に削ろうとしても、またすぐに出てきてしまいます。これが再発です。なぜならうつという症状は、これまでご本人が様々なことに「もがいてきた」証しだからです。
うつのほとんどは、人間関係を無視できません
「うつ」のほとんどは、人間関係が関係しています。言い方を変えれば、人間関係が影響していない「うつ」は、ほとんどないのではないでしょうか。
元々、うつには二大原因があると言われています。「疲れ」と「人間関係」です。確かに「疲れ」は大切なことです。しかしこの疲れは、多かれ少なかれ人間関係による疲れではないでしょうか。
確かにこの疲れの中には「過労」、つまり例えば職場における仕事のやり過ぎが原因と言われるものがあります。このとき過労に至るまでの環境を考えていきますが、この環境を作ってきたのは人間が脈々と作ってきた組織なのですから、そういった社会上の人間関係を見つめずにただ単に「過労」で済ませることには無理があります。このように「過労」ですら、「集団の中で、人はどのように考えるか」が影響しています。
人間は千差万別
職場に限らず、これまで積み重ねられた人間関係の中で作られた考え方をいつのまにか社会は「ふつう」や「常識」という言い方でくくり、ともすればこの軸に見合わないことは半ば無根拠に「いけないこと」とされてしまいます。大変残念なことです。人間の考え方は、千差万別のはずです。もちろん、その千差万別な価値観をすり合わせていくために倫理や礼儀などはあります。しかしこれもその国や文化によって違うもので、決まりきったものはありません。それにもかかわらず人はその環境にいると、その環境における決まり事の中で生きていくことを強いられがちです。しかし絶対的なものではありません。
うつという症状は、様々な葛藤の中で起こります。自分がいまの周囲の環境にまきこまれ過ぎてはいないか、もう一人の自分が心配してくれているサインともいえます。このように、「うつ」というこころのシグナルが見えた時こそもう一度ぐるりと見つめてみる、これがとても大切なことです。
うつの症状は多様
うつの症状は非常に多岐に渡ります。気分が晴れない、眠れない、食べ物がのどを通らないといった典型的なものもありますが、何も考えられない、やる気が起きない、やろうと思っても腰が上がらない、心配事ばかり考えて止まらないなどがあります。あるいは、うろうろ・そわそわして進まない、身体が痛い・しびれる、心臓が痛い、胃が重い、息苦しい、時にはもの忘れといった一見うつとは違うのではないかと思われる症状もあります。
これらはすべてうつのサインですが、うつという言葉からすぐにイメージされるものと違うため見過ごされることがあります。また「うつ病」といわれる以外にも様々な病名に幅広く関わっており、時にはコラボレーションすることもあります。
症状が多彩な理由
どういうわけで「うつ」は幅が広いのでしょうか。もちろんうつという概念を作っていったのは医療側の事情ですが、むしろ現在でも様々な症状をうつと幅広くとらえざるを得ない理由の一つは、やはり「うつはご本人の事情や環境によっていずれの形にも変わりうる」ことを、我々医療者が認めざるを得ないからだと思います。
人間はたとえ家族であっても一人一人背景や事情や環境が異なり、その中で人間関係を築いています。そして人間関係が異なるから心配事も変わり、また向き合い方も様々です。このようにご本人の過去と心身の事情があいまって、うつは多様な形で現れる性質を持っています。
うつの治療 (精神療法・薬物療法・その他)
うつは様々な病名に書き換えられることもありますが、このように一人一人事情や背景が異なるため、目先の症状の種類やその程度にのみに焦点をあてるだけでは無理があります。過去・現在・未来、すなわちこれまでのあゆみと悩み、そして症状およびこれからの心配を同時に見つめていくことが大切です。
薬物療法
症状は警報シグナルであり、ご本人の心配や生活の事情により内容は異なります。SSRIやSNRI、時には三環系と称した抗うつ薬を主体とすることが多いですが、状況に応じて睡眠薬や抗不安薬、気分安定薬、抗精神病薬などを組み合わせます。
お薬は症状の軽快に大きく効果はもたらしますが、万能ではありません。また副作用も少なからず生じるため、ご本人の暮らしに合わせて服用していただくことが大切です。
精神療法
うつは上記のように、様々な事情が絡み合って起こります。あくまで治療はオーダーメイドです。これまでの背景や事情を交えながら悩みや不安を伺い、これからの流れを作っていきます。そこには今まで気付かなかったことに対する発見、いつの間にか見失っていたことの取戻し、新しいコミュニケーションの開拓などがあります。
生活相談・心理面接
生活や環境、こころの状態の把握のため、スタッフが面接をさせていただくことがございます。
支援機関との連携
入院治療が優先される場合は、有床病院へ紹介することがあります。
また医療以外の援助機関との提携~保健師・生活保護・就労支援・児童相談所・子ども家庭支援センター・ハローワークなどの行政機関、学校、法曹関係、各種自助グループ、NPOなどの各種支援団体、障がい者雇用企業などと連携し、必要に応じてコミュニティの増加や生活の充実をはかります。
人事労務担当者の方の面接 (精神科産業医・嘱託医として)
本人の同意のもと、必要に応じて人事労務担当者の方からのご相談を承ることがあります。環境や関係性を見つめることが回復に大切なことは、うつに限らず精神疾患全般にあてはまることです。
現在では新型うつ病(現代型うつ病)、各種のハラスメントなど、コミュニケーションに関わる問題や精神疾患も多く、症状や状態だけではなく全体を見つめていくことが大切です。