こころ、こんにちは。

トラウマ・PTSDについて

トラウマとPTSD

トラウマ(trauma)は精神医学では心的外傷と訳され、元々は火事や水害などの自然災害、戦争、犯罪、事故などあるイベント事が心に影響を及ぼしたときに使われる用語です。元来は、トラウマとは上記のような自然災害のように一回や限定的でわかりやすい事象をトラウマと呼んでおり、いわゆるsingle traumaのみを心的外傷の主な対象としていました。しかし現在は上記のようなものに加え、暴力・いじめ・各種のハラスメントなどに代表される「潜伏性」・「頻回性」・「長期性」を持つ心的外傷を、複雑性トラウマ(complexed trauma)として分類するようになりました。そしてこの複雑性トラウマは、いずれも人間関係に由来するトラウマという点で共通しています。

これらトラウマの影響で様々なこころの異常を引き起こしたものをPTSD(Post Traumatic Stress Syndome) と呼びます。精神症状は多かれ少なかれ何らかのきっかけがあって起こることが多いため、あらゆる精神症状はPTSD(またはASD/急性ストレス障害)にあたると言えなくもありませんが、ことPTSDは「影響を及ぼした明確なトラウマがなければ症状は引き起こされない」という厳格な因果関係を実は含んでいます。

PTSDの症状

PTSDにも細かく言えば様々な項目がありますが、侵入回想、感覚麻痺、覚醒亢進症状をPTSDと三主徴といいます。
侵入回想とは、ふとしたときにその事件や事故の場面が思い出されることを言います。これにより過呼吸になったり、心臓が高鳴る、身体が震えるなど主として身体的な自覚症状を呈している様子をフラッシュバックといいます。

感覚麻痺とは、主に感情面の鈍化傾向を示します。トラウマの影響により時が止まったようになってしまい、自分の感情がわからなくなったり、意志や欲動を感じ取れなくなってしまうことを指します。

もう一つは、覚醒亢進状態です。これは過去のトラウマに似たような状態にさらされるのを過剰に警戒し、常に緊張している状態のことです。これはいわば鎧を着ている状態のため、日頃の暮らしにままならなくなります。いわゆるトラウマ後の防衛反応です。不眠、現在のことに対する集中力の低下、気分のムラやイライラ、落ち着きのなさがみられます。

複雑性PTSDを呈する人に特徴的なこと

PTSDは以前社会で大きく取り上げられ、拡大解釈を招くことがありました。しかしPTSDと診断されるときは、ご自身はこの診断を主張できることは滅多にありません。その様子は内因性うつ病と似て、PTSDが著しいときこそむしろご自身はその状態を否定します。どうしてでしょうか。

複雑性PTSDは、概ね人間関係上のトラウマによる影響が多いといいました。そしてPTSDとして症状に現れる過程には、ご自身が納得しないまま様々な我慢や忍耐をしてきたという過去があります。そのようにある意味努力をしても報われなかった過去に対して、人は自分の対する罪悪感が優先されてしまうのです。特に幼少期青年期時代にはこの自己罪悪感を大きく感じる傾向があります。よって過去の影響がトラウマとして現在の私に影響を及ぼしていると認めることに対し、とても恥ずかしいと考えてしまいがちなのです。

このように罪悪感が優先される傾向から、PTSDの状態の方は現在のご自身の環境に一所懸命適応しようとして、むしろ過剰に「トラウマの影響はない」と言い聞かせていることが多いのです。そのように無理に耐えた状態で暮らしているため、やがてフラッシュバックを初めとする身体症状として顕在化します。ところが上記の通りPTSDの状態ですら、その症状よりも症状を出す自分自身にふがいなさや罪悪感に悩んでいることが多いため、トラウマを考えないようにし、何も問題がない私を社会の中では一所懸命に装っています。そのような中で過剰に緊張した状態が続き、こころの疲れが身体に現れてくるのが複雑性PTSDの特徴です。

PTSDを含む不安障害の治療

薬物療法と精神療法、カウンセリングの他、自助グループや各種支援団体など社会支援ツールを使います。トラウマからの回復には、過去と現在という二つの「時」を同時に回していくことが大切です。この二つの時を無難に回していくには、コミュニティが重要な要素となります。PTSDの状態のときには、無理に社会に順応しようと努めている場合、あるいは反対に過剰な警戒心から社会に出たくても出られない場合とがあります。しかしいずれの場合にも少しずつこころを紐解いていく、あるいは柔らかくなっていく感覚を味わってもらうために、精神療法とコミュニティという二つの要素を推奨しています。

終わりに

PTSDとはいわないまでも、我々の現代の生活はトラウマに遭いやすい複雑な環境です。これを「ストレス」というひとくくりな言葉で済ますのは、とても無理のあることではないかと考えています。むしろ「ストレス」という便利な言葉によって、あらゆる事柄が済まされてしまうことに危機感すら感じます。トラウマの影響は誰にでも起こり得ます。決して引け目や負い目を感じることはありません。