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精神科医から見るブラック企業

[2013.10.01]

ブラック企業という言葉に乗じるわけではありませんが、残念ながら日々臨床をしていて芳しくない対応をされていると感じられる企業もみられます。このアベノミクスのなか、以前と比べ業務量が増え、それに伴う上司部下関係を主としたしがらみも増えているのか、うつ病に至る人も多くなっているように感じます。特に以前業績の良かった企業が不況で我慢し、ここのところの経済状況の上昇気流に乗っていち早く脱しようと躍起になっていると感じられる企業に、ブラックな面が少なからず見受けられるように思います。

その企業の行為のなかでもっとも残念に思われることは、休職診断書を無視して働かせてしまっていることです。本人はそれまで会社に遠慮して精神科に通わずに励んできた結果著しいうつ状態になり、これはもうどうしようもならないと感じて受診しています。就労に見合う状態ではないため休職診断書を作成するのですが、ここで提出先の企業が初めて慌てます。明らかにこのまま続けていくとますます精神状態が悪くなっていくのは明らかなのに、うつ状態を出してしまった責任をどなたかが気にするのか、この休職診断書を無効にしようと持っていかれることがあります。

その最もわかりやすいやり方が、本人の受診先を変えてしまうことです。休職診断書が提出された後、現場や人事が本人を説得して別の医療機関を斡旋し、今度は初診の段階から脇に会社の方が付いて、休職ではなく配置転換などと言う形で最初からおさめようとします。現在受診している医院の診断書が会社では事務的に有効ですから、このように申し合わせが出来ることで、先に出た休職が無効になりおさめることができます。一方うつ病になっている本人は判断力が鈍く説得に弱い状態ですから、「休職すると会社から処遇を受ける」ことをちらつかせられたりすると、会社の言うように受診先を変更し、そのまま働かされ続けてしまうという残念なことになってしまいます。

先に申しましたように実は総じて余裕のない企業や業界にこのようなことが多いようです。無理な業務量や人間関係をそのままにしているのにもかかわらず、いざ従業員から精神疾患が出てくると引け目を感じ、そしてなかったことにする…私たちはこれを「否認」といい、組織でも個人の人間関係でも集団心理でもよく起きることで注意をしています。

私は精神疾患と業務復帰の関係については、「足の骨折」に例えています。つまり休職を要する時期は折れた骨がまだつながっていないときです。これは歩けないわけですから、一部を除いてどのような業務でも遂行が難しいと考え休職の判断となります。その後骨がつながった後は、例えば休んでいた時期に萎えてしまった筋肉を鍛え直すことが目標となりますが、これは産業精神科医としての役割になります。なぜなら取り組む業務内容や時間により現在の萎えた筋肉をどのように戻していくかは異なってくるため、その企業の業務内容を熟知していない主治医ではその判断は不十分と言わざるを得ません。よって私の場合は「休職診断書」とは違い「復帰可能診断書」を出す際には、「業務管理のもとで行って構わない」と付記しております。仕事には4時間でも大変な業務もあれば、8時間フルタイムでも疲れが少ない仕事もあるため、業務内容を正確に把握していない主治医の段階では「残業禁止」とか「何時間まで」などを明記することは無理があります。あくまで産業医や人事部の方となど、業務管理部門の方と照らし合わせて頂くようにしております。それでも判断に悩む場合には、会社の状況を教えて頂いて提案することにしています。ただし本人が会社に申告しているような、仕事面だけがきっかけでうつ状態になっているとは限らないので、特に人間関係に悩んでお越しになっている方が多い私のクリニックでは、見えないプライバシーにも配慮させて頂いております。

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