適応障害について
適応障害とは
適応障害とは、以前は神経症、ノイローゼ、神経症性うつ病などと言われていました。現在の症状が、明らかに現在の状況や周囲環境が影響していると考えられるもので、裏を返せばその影響を及ぼしている契機が取り除かれることで、自然に回復してくるものであろうと考えられてきたものです。心療内科・精神科全体で最も多い診断名です。
適応障害の症状
巷ではいわゆるストレス性といわれるものです。抑うつ、不安焦燥感、不眠、意欲低下、集中力低下、注意力低下、イライラといった精神症状、あるいは食思不振、胃の痛み、吐き気、身体のしびれ、筋肉の凝りなどが主な身体症状です。いずれもポイントとなるのは、「原因となる明確な状況が取り除かれれば、症状は軽減していくと考えられる」ことです。
「うつ病」(内因性うつ病)との違い
「うつ病」と精神科医が申すときは、実は「内因性うつ病」という診断を指します。内因性とは、たとえ契機となる環境はあったにせよ、いまこの状態から回復するためには、きっかけとなった状況が取り除かれたのみでは回復が難しいという意味が含まれています。
対して適応障害は、環境の変化のみで症状が回復の方向に変化するという意味が大きいため、うつ病(内因性うつ病)とは分類されます。
一方、適応障害におけるうつ病に類似した上記の症状は、「うつ状態」といわれています。「内因性うつ病」との主な違いを以下の点に述べます。
1.薬物療法の奏功度の違い
上述のように、うつ病といえば精神科医は通常「内因性うつ病」のことをいいます。「内因性うつ病」とは、現在の症状が脳の神経学的メカニズムの変化によるものであろうと判断されるものです。従って内因性うつ病の場合は、抗うつ薬による治療がほぼ必須です。
2.他罰的か自罰的かによる違い
適応障害は状況依存性を理解しているため、「あれさえなくなってくれれば」「もっとこうなってくれれば」と、ご本人の現在の周囲環境の対するいらだち、あるいは夢や望みの話が中心になります。
対して、「内因性うつ病」の場合は、たとえ周囲環境が症状に多大に影響していると客観的に考えられる場合にも、「私が悪い」と自己処罰的な考え方になりがちです。
3.日内変動の有無
うつ病はその脳の共通したメカニズムの変化から、朝に著しく夕方になると軽減するという日内リズムがあります。対して適応障害は、一般的にご本人が毛嫌いする環境や状況を思い出した時に症状が著しくなりますので、実質的な日内変動は存在しません。
4.状況の好転変化による対応の違い
適応障害は、状況の好転変化に出会えば、向き合う方向で臨もうと考えます。一方、内因性うつ病ではたとえ好転する状況があっても、それに対する自分の変化を想像する能力が減弱しているため、反応が少なくなっています。
5.優先される治療法の違い
うつ病の場合は抗うつ薬(SSRI,NaSSA,SNRI,三環系など)および休養が治療の中心です。適応障害は薬物治療も含みますが、包括的な治療となります。精神療法やグループ療法、認知行動療法(CBT)、あるいは社会援助機関とのつながりを通し、周囲環境や生活体系の変化、新たなコミュニケーションスキルの獲得など、悩みや心配そのものを切り拓いていく方向となります。
適応障害は「甘え」ではありません。
適応障害は、「レシピが少なくなっていて困っている状態」と例えています。つまりそれまでお持ちの物事への捉え方ではご本人の現在の環境に対応できず、手詰まりを起こしている状態です。時にこの時に周囲からよく「甘えている」といわれることがありますが、人間はこれまで生きて来た過程からいまを作っており、またその生きて来た過程にはご本人だけで作られてきたわけではありません。
人のこころは、標準化することが出来ません。また、自分の生き方に「自己責任」だけでは無理があります。それにもかかわらず社会の中で「ふつう」や「正しさ」に過剰に煽られた時、人は「追いつめられる」という方向に導かれることになります。